ETトップジェルの欠陥とは
度々化粧品に見られる回収ですが、今回はミスミラージュにて起きたようです。
対外的な発表としては、
「ミスミラージュ ETトップジェル」が原材料メーカー変更に伴う検品不備のため、一部商品がソークオフではなくセミハードであった。溶剤等でオフをするのが困難なため、該当商品を回収・交換。
とされています。
つまり、オフしようと思っても、いくらアセトンにつけていても、セミハードなのでほとんどオフできない状態になってしまうようです。
そうするとトップジェルを削るしかなく、サロンワークや慣れたセルフネイラーの方であればできると思いますが、あまり慣れていない方であれば、爪ではなく皮膚を削ってしまったりする可能性があるので、扱いづらいと思います。
そうして指に傷などを作ってしまうことにより、アセトンでさらにオフしようとすると、アセトンが染みて痛いといったことが考えられます。
それ以上に悪いことは、皮膚は外敵から身を護る為にあるので、削ったりしてしまうと、そこからアセトンに溶出したモノマーが皮膚に侵入し、炎症を起こす、またはアレルギーを引き起こす可能性も高くなります。
皮膚は厚みがあるとはいえ、その構造は同層の積層ではありません。
最表層に少し硬い身を守る層があり、その少し下には柔らかい層があります。
一見、同じ皮膚のように見えますが、削ってしまって、肉が見えていなくても、もちろん血がでていなくても、身を護るはずの最表層はいなくなってしまっているので、いろんなものが浸透しやすくなります。
それは決して良いことばかりではなく、むしろ悪いことのほうが多いのでご注意下さい。
原材料メーカーの変更
ジェルネイルはウレタンアクリレートオリゴマー、アクリレートモノマー、光重合開始剤の大きく分けて3つで構成されています。
今回のETトップジェルはソークオフタイプからセミハードになってしまったということで、物理的な物性が変わっているようです。
つまり物理的物性に大きな影響のある成分が変更されたと考えられます。
そうするとアクリレートモノマーかウレタンアクリレートオリゴマーのどちらかであると考えられます。
ウレタンアクリレートオリゴマーの日本国内のサプライヤーはそれほど多くなく、数社ほどです。
アクリレートモノマーも同様で数社ほどですが、ウレタンアクリレートオリゴマーは、各社それぞれ特徴をもたせた構造となっている場合が多いです。
ウレタンアクリレートオリゴマーはその名前の通り、「ウレタン」と「アクリレート」が「オリゴマー」になった構造です。
「ウレタン結合」と「アクリレート末端」を持ち、分子量が少し大きいものをウレタンアクリレートオリゴマーと読んでいます。
どのようなウレタン結合をいくつもたせるか、その間を何で繋ぐか、アクリレート末端をいくつ持たせるかなどによってその性質が変わります。
つまりバリエーションが非常に多いです。
そうすると、あるメーカーのウレタンアクリレートオリゴマーを購入していたとして、原材料を変更したいとなっても、同製品を作っているメーカーはない可能性が高いです。
例えると、ウレタンアクリレートオリゴマーは「テレビ」であり、アクリレートモノマーは「液晶パネルや外側のプラスチック」とも言えます。
東芝のテレビ、シャープのテレビ、ソニーのテレビと同じテレビは別のメーカーからは出ていないはずです。
一方、それに使われている液晶はもともとはシャープですべて製造されていたり、またはLG製だったりと意外と遡ると同じサプライヤーであることもあるかもしれません。
そうなってくると、ETトップジェルの原材料変更はアクリレートモノマーかもしれません。
アクリレートモノマーであれば、同じ構造のものをいくつものメーカーが作っているので、切り替えが容易です。
一方、それだけ構造が明らかで同じようなモノにはなるので、切り替えたところで物性が大きく変化するとも思えません。
同じような構造と思い、ウレタンアクリレートオリゴマーを分子量違いとかで変えたとなれば、ソークオフできたものがセミハードになるなどは理解できます。
どちらかは掴みきれませんでした。
そもそもソークオフやセミハードとは
私もジェルネイルを作る仕事をしている中で、ソークオフなのか、セミハードなのかということを考える機会があります。
厳密に言えば、ソークオフかセミハードか、といったことに定義はありません。
強いていうなれば、ソークオフとは15分ほどアセトンに浸けていおいてウッドスティック等で容易に剥がせるものとなるでしょうか。
ではいったいセミハードとはなんなのか。
ハードではない、でもソフトでもない、それがセミハードなのでしょうか。
ではいったいどれくらいハードより柔らかければ、またはソークオフより硬ければセミハードなのでしょうか。
これはそれぞれの人の感性によるところです。
ある人はアセトン15分漬けて、見た目に変化がなくても、メタルプッシャーで押せばもろもろとトップジェルが削れる状態であればソークオフできていると言うでしょうし、
ある人はアセトン15分漬けて、トップジェルからベースジェルまでつるんと剥がせる状態がソークオフできていると言うでしょう。
ではこのセミハードとはいったいなんのことを指しているのか、私にはわかりません。
メーカーの担当者が「これはセミハード」といえば、セミハードになりますし、「ソークオフ」といえば、ソークオフとして売り出されます。ただそれだけです。
A社のセミハードとB社のセミハードでは硬さが全く違い可能性があるということです。
ある意味、とてもいい加減な指標とも言えます。
とはいえ、ミスミラージュは一体なにをしているのか
というのが、私の本音です。
研究者として、もし原材料を変更するとなれば、ほぼすべてのテストをし直します。
たとえばトップジェルであれば、粘度、レオロジー、トポロジー、硬化性、色、硬度、オフのしやすさ、拭き取りのしやすさ、艶の出方、保管安定性など様々なテストが必要です。
同じようであっても、製造工程で入ってくる触媒が異なる、または原料由来でなにか微量成分が入ってくるということがあっても、最終製品に性能差が出てくる可能性があります。
例えば具体的には、重合禁止剤などが挙げられます。
重合禁止剤はその名の通り、重合を抑制するものです。
サロンワークでライトの下でジェルネイルを扱うとなると、そのライトで硬化してしまってはいけません。
また作業性の面から、容器を開けたまま作業される方もいらっしゃると思います。
そうなるとずっと光に当たることになり、本来であれば硬化してしまいますが、この重合禁止剤を入れることで弱い光にあててもすぐには硬化しないようにできています。
一方でこれは諸刃の剣で、LEDライトやUVライトで硬化させたいときにも硬化させにくくもします。
たくさん重合禁止剤を入れてしまうと、硬化しなくなることがあります。
もともとの原材料よりも変更後の原材料の重合禁止剤が少なければ、環境光で硬化してしまう、または出来上がりの物性に差がでるといったこともあります。
そういったところまで吟味しなければ原材料の変更はできません。
ミスミラージュもそういったところまでちゃんと確認していれば、こうした回収にはならなかったのではないでしょうか。
いつもながらですが、たったこんな簡単な確認ですら行えない(時間的に?人的に?)のであれば、より難しい安全性に関する確認など行えるのでしょうか。
他の会社も同じような原材料使って売ってるし、うちも大丈夫だろうで販売しているような気がしてなりません。
またはそれを考えるのは研究の仕事でしょう?と思っていらっしゃるかもしれません。
その研究は社外の可能性があります。(OEMやODM)
製品供給してきているんだから、そっちで安全を担保できたものだけと勝手に思い込んでいるかもしれません。
製品の最終的な安全を担保するのは、「製造販売元」です。
もちろん契約上、何かあった場合に負債を分け合うや過失割合に応じて支払うといった条項を定めている可能性はありますが、いずれにせよメディア的に矢面に立つのは、「エースジェルの件」同様に製造販売元です。(あのときはネイルパートナーでした)
誰かの健康を損なう可能性があるような製品を、「売れるから」「ビジネスだから」という理由で確認もろくにせずに販売していませんか。
ジェルネイルを購入する際には、価格や色、性能だけでなく、こうしたことも考える必要があるかもしれません。
賢者の選択を。